moonbow

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 川崎はまさに、ハンバーグ弁当で言えばハンバーグだし、唐揚げ弁当で言えば唐揚げ。幕の内で言えば、白飯の上に琵琶湖のようにドンと乗っかる鮭の塩焼きだ。つまりは、川崎はどんな時だってフロントに立っているべき華を持っているのである。クラスで目立たないどころか、非の打ちどころのない、学年屈指の綺麗どころ。それだけではなく、成績もよくて、友達も多く、スポーツも申し分ない。  そんな川崎がなぜ自ら学級委員を志願したのかはわからなかったが、席を立って、長い黒髪を揺らして教壇の俺の隣に進み出てきた川崎が、目で進行を促してきたので、俺は気を取り直して、議長としての役割に戻った。 「黒羽(くろば)くん」  川崎と生徒会室での会議に出るようになって、二度目の日。まあ会議だなんて言っても、議論などあるはずもなく、淡々と各クラスの報告事項をこなすだけで終わる、何の意味があるのかよくわからない時間だった。さっさと帰って、メシでも食って寝ちまおう…なんていう独身中年みたいなことを考えていたら、ふいに後ろから、川崎が俺の名前を呼んできたのだ。 「ん?」 「もう帰るんだったら、途中まで一緒に帰ろうよ」  俺が政府の要人とか芸能人だったら、この時点でハニートラップを疑うのだが、先に述べた通り、どこにでもいるどうでもいい高校生であることを自覚している俺は「イイよ」と返事をした。「イイ」が心なしか上ずってしまったのは、やっぱり俺も健康な男子という証拠なのだと、今でも信じてやまない。  肩を並べて歩きながら、俺は川崎と、割といろいろな話をした。お互いのこと、学校生活のこと、将来のこと。枚挙に暇がないとはまさにこのことで、俺は俺でこんなにも他人と話をすることができていることに自分で驚いていたし、しかもその相手が川崎だということにも、また驚きというか、不思議な感情を抱いていた。
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