moonbow

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 言ってしまえば、俺は高校に入学した時から、川崎のことがひそかに気になっていた。最初の頃は単純に(可愛いな)と思う程度だったが、二年生に上がり、こうやって日常会話を交わすようになって、川崎が外面も内面も見た目通りに美しい女の子なのだと気づいてしまった。それが単に(可愛いな)から(あんな子と付き合えたらなあ)という気持ちに変わるまでは、思いのほか早かったと思う。  けれど、俺の中で芽吹き始めたそんな気持ちに、圧倒的かつ絶対的なストッパーをかけてきたのは、俺が好きになった川崎愛莉という女子そのものだった。  彼女は、完璧すぎて、スキがない。それに比べて、隙どころか、穴だらけの自分。比較すればするほどに、不釣り合いさが浮き彫りになってしまう。  ほんの少し踏み出す勇気が持てたなら。そんな風に、考えてみれば簡単なことばかりなのかもしれなかったが、それが難なくできる世界なら、連日ワイドショーを賑わせている話題の八割は特集から消える。そう簡単に言葉にできないからこそ苦しいのであって、言葉にしてしまえば、今のように、ただのクラスメイトとして言葉を交わすことができる現在を失ってしまいかねない。そう思うと、ますます身動きができなくなっていった。
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