moonbow

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 俺が、高校の同級生かつクラスメイトの川崎愛莉(かわさきあいり)から告白されたのは、だいたい半年くらい前。学校祭の準備で学校じゅうがやたらとバタバタしていた、ある日の午後八時半を回った頃だ。  あんなことがいきなり起こったせいで、俺は今でも規則正しく毎日訪れる午後八時半過ぎは、あの時のことを思い出す。悪い気はしない。自分から告白して、なおかつ振られたとかなら苦く忌まわしい記憶になるのだろうが、俺の場合はその真逆だ。自分に好意を持った異性が、自分と恋人関係になりたいと眼前に歩み出てきたのだから。  正直言って、女はどうなのか知らないが、男がそのポジションに立てることなど、DNAの段階からお顔がよほど綺麗に作られているか、親がやたらと金持ちとか、頭はからっきしでもスポーツ万能だとか、そういう何か秀でたものがある人間に限られる。つまりは俺みたいに、波風立てず真面目に過ごし、親や教師の言うことに従い、勉強もそこそこ…なんていうやつが一番モテやしない。バカでも面白い奴の周りには人が集まるが、ただの真面目っ子にいちいち興味を持つ奴などいない。せいぜい、前期と後期にクラスで学級委員を決めなければならないその時には「○○君がいいと思いまぁす」なんて、いい、はいいでも「どうでもいい」と思っている声色で大合唱が始まる時に、その「○○くん」の部分に名前をほとんど無条件に当てはめていただくことができる権利を持つくらいだ。  一言で言う。  要らねえ。
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