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しばらくして、おばあちゃんの退院が決まった。 薬を減らして、リハビリをして。 「おじいさんが待ってるから、頑張らなくちゃね」と、おばあちゃんは笑う。 退院の日。 帰り支度を整えて、うきうきと病院を出たおばあちゃんに、車の中でママが切り出した。 「あのね、おばあちゃんに、言わなきゃいけないことがあるの」 「なぁに、改まって」 「おじいちゃん、いないの」 ママの声が震える。運転するパパも、助手席の私も緊張する。 「いない?」 おばあちゃんが聞き返す。 「・・・・・死んだの」 ママが声を振り絞る。ママの人生で最大の嘘。 家族皆で、決めたことだった。 あんなに仲がよかった、大好きなおじいちゃんが、今は自分のことを覚えていない。おばあちゃんにとってはそれは、おじいちゃんが死ぬのと同じくらい、悲しいことなんじゃないか。 おじいちゃんも、すっかり変わってしまった姿を、おばあちゃんには見られたくないんじゃないか。 それならいっそ、二度と会えないことにしてしまったほうが。 おばあちゃんはもちろんショックを受けていた。 だけど荒れ果てた庭を見て、「お花も私も枯れてたら、向こうに行った時叱られちゃうわ」と、少しずつ花を育て始めた。 おじいちゃんは、おばあちゃんのことも花壇のことも、自分が誰で今どこにいるのかも、もう、わからなくなってしまった。 こんな姿、おばあちゃんに見せたくない。 だけど本当にこれでよかったのか、私は今も時々考える。
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