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過去との邂逅、っていうとちょっとカッコ良さ気。
今も覚えてる。
俺の中学には飼育小屋があって、俺はなりたくもないのにジャンケンで負けて部活前に臭いうさぎ小屋掃除してた。
人目につかない飼育小屋は異性が二人きりで入ることを暗黙のうちに禁止されていて、俺はD組の白神と同じ曜日が担当だった。
白神は名前の通り、色が白くて女みたいになよかった。だから、男が好きだとか体育のゴリじぃのお気に入りだとか根も葉もない噂が立っていた。
そのころの俺はといえばチビで、完全にバカだった。
小学校の続きで女子のスカートを捲りまくった。
腕を大きく振ることはない。手首のスナップを使って一瞬でこなす。
通りすがりにバッと捲れ上がるスカート。たまにブルマ穿いてる女子もいたけど大半は真っ白な下着だった。みんな判を押したように。
だんだんそれがつまらなくなってきた、二学期だったように思う。
ウサギなんてかわいいと思う奴が世話すりゃいいじゃん。
唇尖らせながら雑に箒を振る。丸っこいウサギのウンコがコロンコロン転がっていく。
西日が射す。みんな部活に行ってて人は通らない。
「……お前、なんかほかのに比べて小さいな」
「はぁ?!」
か細い声が自分をバカにしたように感じた。
声の主は、俺に背中を向けていた。
小さな声で、何か話しかけている。
俺にじゃない。優しい声で、メガネ越しの、優しい眼差しで。
ちゃんと食ってるか?他の奴にいじめられてないか?
胸に抱いたウサギに、小さく、話しかける。
馬鹿じゃないのかと、一蹴できたかもしれない。他の奴らみたいになよなよしてるとか女みたいだとか笑えたのかもしれない。
でもそうするには夕焼けはあまりに美しく。
西日は白神の頬を仄橙に縁どって、伏せられた睫毛の一本一本が濃く、長かった。
「白神」
こちらを向いた目元に、小さな黒子がある。それすらも明瞭に過ぎて。
そして、なによりも。
「お前、男が好きだって本当?」
あの頃俺はバカだったんだ。
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