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柊木野学園はエスカレーター式の学校のため、通常の授業態度や試験の結果がそこまで悪くなければ大学へ進むことができる。そのため、普通の受験生のように夏休みを潰して受験勉強をする生徒は少なく、逆にセレブらしく長期休みを利用して海外へ旅行に行く人が多い。
西園寺家は勇一さんも仕事が忙しいという事もあり、まとまった休みを取る事は出来ないため、旅行に行くということはできなかった。凌玖からは「どこか行きたい所があれば付き合ってやる」と言われたが、特別行きたいと思う場所も無かったため断った。
いや、“行きたい場所が無かった”と言うよりは、庶民の心が抜けきれず、そんな贅沢はできないという気持ちが大きかったからだが。
そんな夏休みに入ってしばらく経ったある日、紫央君からグループメッセージが届いた。
「ハァ?花火大会だぁ?」
同じグループに入っている凌玖はそれを見て面倒そうな声を上げた。
「何だってあいつは急に言い出すんだよ」
そんな凌玖に私は苦笑を浮かべつつ、送られてきた内容に改めて目を向けた。それは、今日行われる花火大会へのお誘い。しかも、「全員強制」の文字付き。集合時間と場所も記載されており、行くこと前提の内容だった。
「凌玖、行くの?」
「『全員強制』らしいからな。行かないなんて言ったら後々煩そうだ。それに、たまにはあいつらに付き合ってやるのも悪くねぇしな」
ぶっきらぼうに言いつつもみんなに合わせようとしてくれる凌玖に、私は少し嬉しくなった。以前の凌玖だったら、きっとみんなとどこかへ行くということはしなかっただろう。
そう考えた時、私はふとある考えにたどり着いた。
「そういえば、凌玖ってお祭りとか行ったことあるの?」
私には、財閥の御曹司が庶民の祭りに参加している姿が想像できなかった。ましてや、今まで人と関わろうとしてこなかった凌玖だ。きっと行ったことが無いんじゃないかと思った。
「俺様を誰だと思っていやがる。祭りの知識くらいはあるよ」
絶対「行ったことない」とは口にしない凌玖に、私は苦笑を漏らした。
「そういやぁ、メールに『浴衣で来ること』って書いてあったな」
私はその言葉に改めて携帯に目を落とした。確かに、「全員浴衣で来ること」と書かれている。紫央君のその徹底振りに、私は思わず笑いが溢れてしまった。
「浴衣なんて持ってねぇぞ…?」
「あ、そっか。お祭り行くのも初めてだったら浴衣も持ってないよね」
私の言葉に凌玖は一瞬だけ不機嫌そうな瞳を向けた。よっぽど自分が行った事ないと思われるのが嫌らしい。
「お前は持ってるのかよ?」
「うん」
西園寺家へ来る前にも毎年地元で小さな夏祭りが催されており、よく友達と浴衣を着て行っていた。
「ハァ…。仕方ねぇ。今から買いに行くか」
「え…?わざわざ買いに行くの?」
「無いんだから買うしかねぇだろ?」
確かに、紫央君からのメッセージには「浴衣で来ること」と書かれていたが、今日1日のためだけにわざわざ買いに行くだろうか。そういう発想になるところが私と凌玖の育った環境の違いなのだろうと、私は改めて思った。
その時、凌玖の携帯が鳴った。
「…及川?」
凌玖はディスプレイに表示された名前を見て怪訝そうな顔をしつつ、電話に出た。何度か言葉を交わした後、凌玖は電話を切り、小さく溜め息を吐いた。
「浴衣、俺のは及川が貸してくれるそうだ」
「え?そうなの?」
「あいつ『どうせ浴衣なんて持っていないだろ?庶民の祭りに行くんだから、何でも金で解決しようとするな』とか言いやがって」
ムスっとした表情をしている凌玖には悪いが、私も真翔君の意見に心の中で小さく賛成をした。
その後、凌玖は真翔君の家に行ってから会場へ向かう事になり、先に家を出て行った。
私も準備を始めようと、クローゼットから浴衣を取り出した。その浴衣は、紺色の生地に大きな桜が幾重にも咲いている物だった。
「問題は着付けだよね…」
いつも浴衣を着る時はお母さんが手伝ってくれていた。しかし、今はお母さんも仕事に行っているため不在。こういう時、凌玖だったら迷わずお手伝いさんの誰かを呼んでいるんだろうけれど、皆さんの仕事の手を止めさせてまで頼むなんて、私にはまだ出来ない。
とりあえず自分でやってみようと思い、携帯で着付けの方法を検索してみる。すると、文章やイラストだけではなく、動画まで見つける事ができた。
私はそれらを見ながらしばらく浴衣と格闘してみたが、思ったように着る事が出来ない。最後まで出来たと思っても、帯が取れそうになったり、胸元が緩かったりと、見栄えが良くない。
時計を見ると、そろそろ出ないと間に合わない時間だった。
(こうなったら申し訳ないけれど、誰かお手伝いさんに頼むしかないかな…)
そう思った瞬間、「ただいま」という声が聞こえてきた。私には正に救世主のように感じられ、部屋から飛び出してその声の主の元へと向かった。
「お母さん!浴衣の着付けして!」
若干着崩れしている着物を落ちないように押さえながらやって来た私に、お母さんは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに呆れたように苦笑を漏らした。
「奏…あなた、なんて格好してるの…」
「だ、だって…1人でうまく着れなくて…」
「仕方ないわね。ほら、やってあげるから部屋へ行くわよ」
そう言って歩くお母さんの背中に「ありがとう」と言いながら、お母さんの後を追いかけた。
その後、お母さんは手際よく浴衣を着せてくれた。ついでに髪もアップに上げ、右側に花の髪飾りを付けてくれた。
「…はい、完成」
「ありがとう!お母さん」
私はお母さんにお礼を言うと、カゴバックを手に掴んだ。時計を確認すると、もうすぐ待ち合わせ時間になる。完全に遅刻だ。「気を付けてね」と言うお母さんの言葉を聞きながら、私は急ぎ足で家を飛び出した。
私は道すがらみんな宛に遅れる旨メッセージを送ると、すぐに紫央君から「待ち合わせ場所で待っているから、気を付けて来てね!」と返信があった。その優しい言葉に申し訳なく思いつつ、私は待ち合わせ場所でもあるお祭り会場の入口を目指した。
私が着いたのは、待ち合わせ時間から10分程過ぎた頃だった。お祭り会場の入口付近は待ち合わせなのか多くの人がいて、ここから待たせてしまっているみんなを探す事が出来るのだろうかと少し焦っていた時、見知った人影を見つけた。私はその人物に向かって声を上げた。
「椎名君!」
私の声に反応して、携帯を見つめていた視線を上げた椎名君と目が合った。
「ご、ごめんね…!遅くなって…」
私は人波を掻き分けながら椎名君の傍まで行くと、謝罪の言葉を述べた。
「…いや、別に…」
しかし、歯切れの悪い椎名君の言葉に不思議に思いつつ彼へと視線を向けると、椎名君は顔を背けていた。既に辺りは暗くなってはいるものの、お祭りのライトに照らされた椎名君の顔は、心なしか少しだけ赤いような気がする。
「…どうかした?」
私は椎名君の顔を覗き込むように尋ねると、再び顔を逸らされた。私が不思議に思っていると、小さな椎名君の声が聞こえてきた。
「…浴衣…」
「え…?」
「……浴衣、似合ってる…」
先程よりも顔が赤い椎名君の顔が見え、私も釣られて顔が熱くなっていくのを感じた。
「あ、ありがとう…。椎名君も似合ってるね、浴衣…」
グレーの生地に縞模様が施された浴衣に黒い帯を締め、シンプルながらも椎名君のイメージにとても合っている。胸元が少し開いて鎖骨がチラリと見えるのも、どこか男性の色気を感じた。
「お、おう…。サンキュー…」
私と椎名君はしばらくお互い恥ずかしさから視線を逸らしたまま、無言の状態で立ち尽くしていた。
「…そ、そういえば、他のみんなは?」
辺りを見渡しても凌玖達の姿が見えない。私は気まずさを紛らわす意味も込めて椎名君へ質問した。
「他の奴らは先に花火の閲覧スペースに行ってる。この人の多さだから、先に行って場所取っておくってさ。だから俺がここで奏を待ってた」
「そっか…。本当にごめんね…」
「そんな何度も謝んなくても良いよ。…俺はラッキーだったし」
椎名君の最後の方はあまりにも声が小さく、周りの喧騒でよく聞き取れなかった。
「え…?」
「何でもない。それより、俺達も行こうぜ」
そう言って進み出した椎名君の後ろを、私は慌てて追った。
花火を観覧する場所までは、普通に歩けば15分程の所。しかし、その道の両脇には様々な屋台が立ち並び、その屋台に並ぶ人や私達と同じように観覧場所に向かっている人など、多くの人でごった返している。そのお陰で前に進むのも一苦労だ。おまけに、今日は履きなれていない下駄を履いているせいもあり、更に歩きにくさを倍増させている。それでも、はぐれてしまったら再度合流するのは大変そうだと思い、私は必死で前を歩く椎名君について歩いた。 その時、背中に軽い衝撃があったと思った瞬間、身体がぐらりと傾いていくのを感じた。
「あっ…」
私は小さく声を上げた直後、力強い腕に抱きとめられた。
「大丈夫か?」
その声に顔を上げると、椎名君の顔が目の前にあった。椎名君の腕はしっかりと私の背中に回され、私の身体を支えてくれている。
「う、うん…。ありがとう…」
私は転びそうになった事と、椎名君に抱きしめられているこの状況に恥ずかしさを感じ、椎名君の腕から逃れつつ小さくお礼を言った。
「ったく、ホント危なっかしいよな、お前」
そう言って苦笑混じりに笑うと、椎名君は「ホラ」と手を差し出してきた。
「また転んだら危ないからな。俺の手に捕まってろよ」
「え!?で、でも…」
「良いから」
椎名君は恥ずかしくて躊躇っている私の手を握ると、「行くぞ」とそのまま引いて歩き始めた。
握ってくれた椎名君の手は、力強くも優しく感じられた。
しばらく歩くと、私は1つの屋台が目に飛び込んできた。
「あ…」
小さく呟いた言葉に椎名君が反応し、私の視線の先を辿った。そこには綿あめのお店があった。
「何だ?綿あめ食いたいのか?」
「だ、だって…普段あんまり食べないし…甘いの好きだし…」
小さく笑う椎名君に言い訳じみた言葉を並べるが、自分が子供っぽく思えて恥ずかしくなってきた。
「別にダメだって言ってねぇだろ?ほら、行くぞ」
そう言いながら、椎名君は綿あめの屋台へと向かおうとした。
「え!?でも、早く行かないとみんな待ってるでしょ?」
「少しくらい良いだろ。せっかくの祭りなんだ。楽しまないと勿体無いだろ」
いつもよりも少し楽しそうな椎名君の顔に一瞬ドキリとしつつ、私は椎名君に引っ張られるまま屋台の前へと向かった。
椎名君は屋台のおじさんに綿あめを1つ注文すると、私がお金を出すのを遮られ、そのまま椎名君が支払いを済ました。
「ほら」と差し出された綿あめを私は申し訳なく思いつつも「ありがとう」とお礼を言って受け取ると、一口齧った。甘い味が口の中に広がる。
「…美味しい!」
「そっか。良かったな」
「あ、椎名君も食べる?」
そう言いながら、私は椎名君に綿あめを差し出した。椎名君がお金を払ってくれたのだから、もし食べたいと思っているのであれば当然食べる権利がある。私は何事も無く綿あめを差し出したが、何故か椎名君は驚いた表情をして、その次は大きく溜め息を吐いていた。
「お前は…どうしてそう無自覚なんだよ…」
「え?何が?」
椎名君の言った言葉の意味を理解できず、私が首を傾げた。
「…何でもねぇよ。じゃあ、せっかくだから一口もらうぜ」
そう言うと、綿あめの棒を握る私の手に椎名君が手を重ね、綿あめに顔を近付けた。その思いもしない椎名君との距離の近さに驚き、私は一瞬身を引こうとしたが、手を握られているため叶わなかった。
「…甘ぇ」
一口食べた椎名君は一言そう言うと、唇をペロリと舐めた。その仕草が妙に色っぽくて、私は思わず俯いてしまった。
「何赤くなってんだよ。自分から差し出してきたくせに」
「だ、だって…椎名君が…」
私が顔を上げると、真っ直ぐと向けられた椎名君の目が私を見つめていた。
「…俺が、何だよ?」
その視線に何故かそれ以上言葉が出てこなくなり、私は再び視線を逸らすことしかできなかった。
「…な、何か…今日の椎名君、おかしいよ…。椎名君らしくない…」
「…こんな俺は、嫌か…?」
「そんなことはないけど…ドキドキして落ち着かない…」
「…じゃあ、もっとドキドキすれば良いよ」
その言葉に視線を上げると、私を見つめる椎名君の真剣な視線とぶつかり、更に鼓動が早くなるのを感じた。
「…なんてな。俺も祭りの雰囲気でテンション上がってるのかもしれないな」
そう言って、椎名君は近かった私との距離から顔を離した。
「ほら、行くぞ」
そう言って差し出された手に、私は再びゆっくりと手を重ねた。
しばらく歩くと、私達は提灯がたくさん飾られている場所に来た。このお祭りの見所の1つなのだろう。提灯1つ1つに優しく光が灯っていて、その光景はどこか幻想的にも感じる。
「…綺麗」
私はその美しさに、思わずポツリと言葉を漏らした。
「…奏」
急に名前を呼ばれ、私は横にいる椎名君を見上げた。椎名君は顔だけ私の方へ向けていたが、その視線は真っ直ぐと私を見つめていた。提灯の灯りのせいか、その瞳はユラユラと揺らいでいるように見える。
「俺……」
椎名君は一瞬視線を逸らして言い淀むも、再び私の方へと視線を戻した。
「…俺……奏の事が好きだ」
それはあまりにも唐突に言われた言葉で、私は一瞬何を言われたのか分からなかった。しかし段々とその意味を理解していくのと同時に、一気に顔に熱が集まっていくのを感じた。
「…急に悪かったな、驚かせて」
そう言った椎名君に、私は俯きながら小さく首を振った。
「それでも、どうしても伝えたかったんだ。俺の気持ち」
椎名君の声から真剣さが伝わってきて、尚更私の鼓動を早くさせる。何か答えないといけないと思っているのに、うまく言葉が出てこない。
「…あの…、私…」
「…奏は、今好きな奴いるのか?」
椎名君の問い掛けに、私は何も答える事ができなかった。
正直なところ、今まで誰かを好きになった事は一度も無かった。素敵だなと思う人はいた事もあったが、告白して付き合いたいかと言われたらそうでも無く、冷静に考えればそれはただの憧れで終わっていた。
だから、椎名君にも「いない」と一言返せば良いだけなのに、何故か言葉が出てこなかった。
理由は分からないが、“好きな人”という単語を聞いた瞬間、私の頭の中にはある人物の顔が思い浮かんできた。
(…どうして、今…)
「…今、誰の事を考えてる?」
椎名君の言葉に、私はハッと我に返った。そんな私の様子に椎名君は小さく苦笑を漏らした。
「…やっぱり、好きなんだろ?…西園寺のこと」
その言葉に、私の鼓動がドクンと大きく跳ねた。
「今考えてたの、西園寺だろ?」
「…どうして…」
「分かるよ。俺は、奏の事を見ていたから」
椎名君の真っ直ぐな言葉が恥ずかしくて、私は再び視線を下へと向けた。
「…好きなんだろ?…西園寺のこと」
再び尋ねられた質問に、私は小さく頭を振った。
「分からない…」
小さく告げた私の答え。
確かに、先程頭に浮かんだのは凌玖の顔だった。
しかし、だからと言って凌玖の事を好きかどうかは分からない。
「…本当に?」
優しく尋ねられた椎名君の言葉に、私はゆっくりと顔を上げた。
「もう分かってるはずだろ。自分の気持ちを」
「…自分の、気持ち…?」
椎名君の言葉に導かれるように私は胸に手を当てると、ゆっくりと瞳を閉じた。
最初はとても冷たい印象を受け、一緒に生活するのがとても不安だった。
だけど彼の瞳の奥にある悲しい感情に触れていくうちに、何故か放っておけなくなった。
彼を助けたいと思った。
そして、次第に別の感情も見え始めてきた。
彼に触れたい。
もっと傍にいたい。
(…そうか、これが…)
改めて考えると自分の最近の感情にも色々納得がいく。
香里奈ちゃんと凌玖が話をしていたのを見て胸が苦しかったのも、凌玖が傍にいると思うと安心するのも。
(…好き、だから…)
そう自分の中で答えが出ると、一気に恥ずかしくなって顔が赤くなるのを感じた。
「フッ…気付くの遅過ぎ」
椎名君の言葉に私は目を開けると、椎名くんは優しい笑顔を向けていた。
「俺にとって西園寺は大切な奴だから…。そんな西園寺と奏が一緒に笑っていてくれていたら、俺はそれで良い」
「椎名君…」
「今日は話を聞いてくれてありがとな、奏」
椎名君の優しさが伝わってきて、私が何故か泣きそうになった。
でも、ここで私が泣いてはダメだ。
「…私の方こそ、ありがとう」
笑顔の椎名君に、私も精一杯の笑顔を返した。
その後、恭介と奏はみんなと無事に合流し、花火が打ち上がるのを待っていた。
そんな中、恭介は紫央の隣りに静かに座った。
「伝えられた?恭ちゃんの気持ち」
みんなには聞こえない声で、紫央は隣りの恭介へ声をかけた。
「…まぁ、な」
「…そっか」
いつにもなく弱い声で返す恭介に、紫央もそれ以上何も言わなかった。
「…俺、バカなのかな」
「どうして?」
「…アイツの気持ち、気付かせるような事しちまった」
「…後悔、してる?」
その問いに恭介は無言となったが、しばらくして小さく首を横に振った。
「…後悔は無い。むしろスッキリしている」
「それなら恭ちゃんはバカじゃないよ。ちゃんと後悔しないように動けたんだから」
「…そっか。そうだよな…」
そう言うと、恭介は小さく笑った。
ちょうどその時、大きな音と共に花火が打ち上がった。
夜の空にキラキラと輝く花を一瞬だけ咲かせ、すぐに儚く散っていく。その光景に周りの人達は感嘆の声を上げていた。
「…恭ちゃん」
紫央の言葉に、恭介は空を見上げていた視線を紫央へと向けた。
「…泣きたくなったら俺の胸貸すから、いつもで言ってね」
ニコリと笑って言う紫央に一瞬だけ恭介はキョトンとしたが、フッと小さく笑った。
「バーカ。いらねぇよ。…でも、ちょっとだけ肩貸してくれねぇか」
そう言うと、恭介は紫央の肩に顔を埋めた。
「…うん。頑張ったね、恭ちゃん」
そんな恭介の頭を紫央は優しくポンポンと撫でた。
次々と打ち上げられる花火。その綺麗に周りの人達は空を見上げて夢中になっていた。
そんな中、恭介は紫央の肩に顔を埋めながら、静かに涙を流した。
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