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第二章 子どもの頃の鬼役
その日は、どんよりとした曇り空の日であった。その日もあたしは鬼役を演じていた。
「ひと雨くるかな」
そう思って、手の平をかざすと、しずくが頬をしたった。夕立になるんじゃないかな。
早くみんなを見つけないと。しかし、こんな日に限ってみんなは見つからなかった。雨はしだいに勢いを増してきた。
「もう、帰っちゃおうかな」
そうは思ってみても、そうそう引き上げるわけにもいかなかった。大人たちから見れば、馬鹿げたことかもしれないが、子供には子供のルールがあった。『鬼やめズルイ』この言葉が、子供たちの鬼役の勝手な放棄に対する戒めとなっていたのである。
雨があがるころにはずぶ濡れになっていた。雨あがりの虹の彼方から友達たちが手にタオルを持って駆けてきた。
「ごめん。ごめん。もう帰ったのかと思ってた」
屈託なく笑う少女たちを笑顔で向かい入れるのが鬼の役割でもあった。
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