第四章 絶対絶命の危機

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第四章 絶対絶命の危機

 そういえば、子供のころは鬼ごっこが嫌いだったけど。社会にでると、鬼ほどいいものはないなと思えてきた。鬼とは、すなわち、『追うもの』であり、鬼以外の者は、単に『追われるもの』を意味した。『追うもの』には全てが許され、常に正義の旗印をかざした。反面、『追われるもの』は全てが制約され、悪者を意味した。なぜ、追われるのか、それは、『悪事を働いたからだ』ということよりも、『追うもの』は常に強者であり、『追われるもの』は常に弱者であるということが、全てを決定づけていた。念願の鬼役をのがれた優子であったが、今や、ライオンに追い回されて、逃げ場を失った子ジカにしかすぎなかった。 「やれ、やれ、腹もふくれたし、家捜しでもするか」 優子は、借金取りが、自分の隠れている洋服ダンスに近づいてきているのを感じた。 優子の額から汗が吹き出してきた。 「もう、だめだわ」 洋服ダンスが、開き、部屋の明かりで目がくらんだ。 「ユウちゃんみっけ。こんどは、ユウちゃんが鬼よ。だいじょうぶ、ユウちゃん」 「へんなところに隠れるんだから。頭うったんじゃない。こぶが出来ているよ」 我に返った優子は、ユウちゃんに戻っていた。 「あたし、ずっと、ずっと、鬼でいいよ」 「へんな、ユウちゃん」 いつの間にか雨雲はすっかり姿を消し、澄み切った青い空が広がっていた。
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