第一章 『鬼ごっこ』の記憶

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第一章 『鬼ごっこ』の記憶

 あたしは、『鬼ごっこ』が嫌いだった。 いや、正確にいえば、『鬼ごっこ』に限らず『かくれんぼ』や『影踏み』に到るまで。 およそ、鬼という役割が必要な全ての遊びが嫌いだった。理由はいたって、明白だった。 鬼は常にあたしの役割だったからである。  小学生だったあたしは、よく、友達にこう言った。 「どうして、あたしばかりいつも鬼なの。たまには、あたしにも逃げる方の役をやらせてよ。どうして、そうやって、みんなで、あたしをいじめるの」 「だれも、あんたをいじめているわけじゃないのよ。だって、あんたがいつもジャンケンに負けるから、あんたが鬼になるんじゃない。ジャンケンに勝てば、いいのよ」 あたしは、今も昔もジャンケンには弱かった。OLになってからもお茶くみ当番は常にあたしだった。 「それじゃあ、こうしない。じゃんけんに勝った方が鬼になるって。イイと思わない」 もちろん誰も賛同者はいなかった。子供たちにとって、鬼から逃げ回るスリルを味わうことがこの遊びの主旨であり、わがままな子供たちにとって、自らその権利を放棄することなどありえないことだった。かくして、あたしは、好むと好まざるに関わらず、幼い少女たちのために鬼役を演じ続けた。
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