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本編
犬が人間のパートナーになって、長い年月が過ぎた。
その中で犬も生物としての成長を遂げていた。
つい最近では、突然変異で頭が人並みの知能になったのだ。
それもあり、人と犬との関わりも変わっていった。
犬は生まれてすぐに犬の学校に行き、常識を身につけるようになったのだ。
「はーい。みなさん、明日は抜歯式が行われます。みなさん元気に学校に来てくださいね」
犬の学校の先生が微笑ましく笑う。
そのセリフを苦々しく犬の生徒たちは聞いていた。
そして、生徒はその言葉を聞いて犬用の宿舎に向かう。
「でもさ…抜歯式ってどうなのかな?」
コロが首を傾げる。
「必要に決まってるだろ。だって俺たち犬なんだからさ」
今の常識では犬は大人になる前に歯を抜くのが当たり前になっていた。
人に噛み付いても危なくないように歯を抜かれ、
特製の樹脂の歯の入れ歯を入れ込んで生活するのだ。
「でもさ…じゃあなんで俺たちに歯が生えているんだろ?」
「しょうがないだろ。そういうルールなんだから」
他の犬はそんな感じでコロの疑問をまともに取り合ってもくれなかった。
そのことをしょうがないと思いつつも、どうにも腑におちなかった。
コロは疑問を持ったまま、トボトボと歩き宿舎の檻の中に入っていくのだ。
そして、その夜檻の中から、窓越しに見える月を眺めていた。
「綺麗だなぁ?」
月の光が暗い宿舎の中に入り込み、キラキラと光り輝いている。
「やっぱり仕方ないのかな?」
コロは歯が抜かれるのが不安で仕方がなかった。
自分の両親の顔を見たことがある。
ニッと笑顔を浮かべるたびに透明の樹脂が顔をのぞかせるのだ。
幼い頃はなんとも思わなかったが、
いざ自分の番になってみるとものすごい恐怖だった。
歯を抜かれ、歯ぐきから血がボトボト垂らしながら大泣きする自分を想像して
コロは背筋が寒くなるのを感じた。
そして、歯が樹脂でできて硬いものが食べられなくなるため、
専用のエサをご主人様からもらうのだ。
この考えはあまり一般なのではないのかもしれない。
みんな歯が抜かれるのが当然で、それが犬にとっても人にとっても最も正しい在り方なのだ。
そう自分に言い聞かせて、眠りにつこうとする。
しかし、首のすわりがどうにも落ち着かない。
何度も何度も姿勢を直し、寝付こうとするが恐怖心ばかりつのり一向に眠気が湧いてこなかった。
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