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「いいよ。今日が私の命日なんでしょ?」
死神が見えるなんてありえないことなのに、少しも怖がる素振りを見せない。
あろうことか彼女は死神の俺にそう言ってきたのだ。なのに俺は何をためらっているのだろう。
最近の命の刈り方は特殊で、鎌を使うやつは滅多にいない。俺の場合は
キスでしか人の命を奪えない。本来なら愛を伝えるための行為なのに。相変わらず不幸というのは人を選ばない。
その事を伝えても何も動じない。こんな
人間は初めてだ。本当に…奪わなければならない命なんだろうか…。しかし、このままでは死神であることの面子が立たん。
無理やり瞳を閉じて覚悟を決める。……これも仕事だ…。まだあどけなさが残る顔に手を添え、ゆっくりと距離を縮める。
「あ、そうだ。…あなたイケメンだし、
世界一幸せなキスにしてね」
そう言って笑う彼女は儚くて。…さようなら。
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