短編 恋愛 完

2/2
前へ
/2ページ
次へ
「いいよ。今日が私の命日なんでしょ?」 死神が見えるなんてありえないことなのに、少しも怖がる素振りを見せない。 あろうことか彼女は死神の俺にそう言ってきたのだ。なのに俺は何をためらっているのだろう。 最近の命の刈り方は特殊で、鎌を使うやつは滅多にいない。俺の場合は キスでしか人の命を奪えない。本来なら愛を伝えるための行為なのに。相変わらず不幸というのは人を選ばない。 その事を伝えても何も動じない。こんな 人間は初めてだ。本当に…奪わなければならない命なんだろうか…。しかし、このままでは死神であることの面子が立たん。 無理やり瞳を閉じて覚悟を決める。……これも仕事だ…。まだあどけなさが残る顔に手を添え、ゆっくりと距離を縮める。 「あ、そうだ。…あなたイケメンだし、 世界一幸せなキスにしてね」 そう言って笑う彼女は儚くて。…さようなら。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加