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「そろそろ行かなくっちゃ」
そう、彼女が言った。
「そろそろ行かないとね」
そう、僕が言った。
「じゃあ、又ね」
そう言うと、彼女は窓のすぐ外のベンチから静かに立ち上がった。
そして僕を振り返り、ヒラヒラと手を振る。
「又、明日ね」
僕は、ニッコリ笑って、彼女に手を振り返した。
「うん。又、明日」
僕の返事に、夕暮れの茜色に染まった空の下で、彼女は太陽のようにニッコリと微笑む。
そして、振っていた手をおろすとクルリと踵を返して、小走りに公園の外に向かって駆けて行った。
僕は、それを窓からずっと、ずーっと眺めていた。
やがて、彼女の背中が街路樹の向こうに見えなくなるのを待って、僕は起こしていた半身をベッドにゆっくりと横たえた。
「又明日……か」
別れ際の何時もの約束。
彼女はその約束を破る事無く、毎日僕の元を訪れた。
晴れの日も、雨の日も。
そして、窓のすぐ外にあるベンチに座って、僕達は取り留めのないおしゃべりを楽しんだ。
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