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プロローグ
襲撃者が放った火の矢が地面に突き刺さった。
その後は一瞬だ。
落ち葉に引火し、広がり、森はあっという間に火の海になった。
空気が熱い。肺が焼けそうだ。
なるべく空気を吸わないように顔を顰めて呼吸を浅くしていると、隣を飛行する母が花柄のスカーフを巻いてくれた。スカーフからは母の匂いがして、不安と恐怖でいっぱいだった心に少しだけ余裕が生まれる。しかしお礼を言おうと母を見て、その余裕はすぐに吹き飛んでしまった。目尻には自然と涙が浮かぶ。
妖精の特徴である、背中から生える半透明の四枚の羽。
母のそれは二枚が失われ、残る二枚は大きな穴が空いている。今こうして飛んでいるのが奇跡のようだった。事実、速度はどんどん落ちていく。
もうすぐ飛べなくなると悟った母が、娘の手を取った。
「お母さんが囮になるから、振り返らずにこのまま真っ直ぐ飛びなさい」
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