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風の冷たさも、ほぼ航が盾になって実那都をまともに襲うことはない。
安定した足もとも風よけの盾も、実那都にとって航そのものに感じた。
実那都は声が届くように少し身をかがめる。
「航、航は役に立つとかそういうんじゃない。それ云うんだったら、わたしのほうが役に立ててない感じ」
「役になんて立たなくていい。好きってそういう気持ちから生まれるもんじゃねぇだろ」
「じゃあ、どういう気持ちから生まれるの?」
「そんなの、わかるかよ」
航が吐き捨てるように、あるいは投げやりに云うと、実那都はくすくすと笑った。
「わたしも航とおんなじ。一緒にいて、航はそれだけで力になってくれてるよ。航が好きだから。大好きだから」
「うわっ」
「きゃっ」
自転車が揺れ、実那都はとっさに航にしがみついた。
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