1.イノセンス

9/53
前へ
/222ページ
次へ
近くですれ違ったことはあっても、こんなに近い距離で祐真と面と向かったことはなく、実那都は反射的にびっくり眼の顔を引く。 「おい、祐真……」 「いいこと、教えようか」 航が呼びかけているのをさえぎり、祐真は首を傾けて実那都に話しかける。 「……え……」 祐真はいつも冷めた目でいて、その端整な顔立ちまでも冷たくして近寄りがたい。 笑っていてもばか騒ぎしていても、友だちと話していても、どこか一歩退いて眺めている。 実那都はそんな印象を持っていたけれど、いま見返す目はめずらしくちょっとだけ温かい。 祐真はふと実那都から視線を外すと、挑発するように背後の航を流し目で見やり、また実那都に戻した。
/222ページ

最初のコメントを投稿しよう!

287人が本棚に入れています
本棚に追加