彼女

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「涼子」  声をかけてから俺が部屋に入ると部屋にはかみそりを片手に床に座り込んでいる涼子がいた。手首には新しい切り傷がある。 「トモ君……」  涼子がうつろな目をして俺を見上げた。  俺は顔色ひとつ変えずに部屋に入り、黙って涼子の細い腕を取った。  傷口から一筋の赤い筋が流れ落ちている。  俺は部屋に置かれている薬箱を開けた。涼子がこうなってからは涼子の部屋には薬箱が置かれるようになった。  薬箱には包帯や傷薬が常備されている。  涼子は俺が傷口に薬を塗るのを嫌がりもせずただ黙ってされるままになっていた。  薬を塗り終わると俺は涼子に優しく諭した。 「涼子。痛いだろう。こんなことして」 「ううん……」  涼子は弱弱しく首を横に振った。嘘だ。痛くないわけがない。 「だってこれ以上に痛いのだもの」  涼子の言葉に俺は戸惑った。 「これ以上に痛いって何が?」 「私が、いることが……」  俺は涼子の口から発せられた言葉の意味がわからずに、戸惑った。 「涼子がいることって、どういうことだ?」 「だってね……」  涼子は顔をあげた。その顔は内から膨れ上がる苦痛に耐えるように苦しげにゆがんでいた。 「私、生きている意味ないんだもの。社会には必要とされていないし、家にいてもただご飯を食べて寝るだけで何もできない。 同年代のトモ君や他の皆は社会出て活躍して、どんどん先に進んで行くのに。私、何もできない。生きているだけ無駄なのよ」  そう一息に言うと涼子は堰を切ったようにぽろぽろと大粒の涙を流した。 「なんで私、こんななんだろ。何もできない。生きていても意味のない存在なのに、それなのにどうして私は今、呼吸しているの?どうして私の心臓は今も動いているの? もう生きている意味がわかんない。私、なんでここに在るの」 「涼子!」  俺は震える涼子の肩を強く抱いた。  痩せた小さな肩だった。やっと少し分かった気がする。  なんで涼子がこんなにも苦しんでいるのか。  就職活動で不採用と言われるたびに自己を否定された気持ちになり、不安と焦りに追い詰められる。  見えない将来に対する不安が恐怖に変わる。  それが辛く耐えられなかったのか。
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