彼女

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 涼子の回復の兆しはなかなか見られなかった。  突然、部屋の壁に頭をぶつけたり、手首を切ったりすることがあるたびに周りは慌て騒がず冷静に対応した。  病院からなるべくストレスをかけさせないようにと言われていたので、俺は気分転換に涼子と外に出かけることにした。 「ね、トモ君。あれ、可愛くない?」  ウィンドウショッピングをしていると涼子が嬉しそうに声をあげ、通りがかった店のショーケースを指差した。  外を出歩く涼子は機嫌が良くて本当に楽しそうだ。そんな涼子を見て俺は涼子を家から連れ出してよかったと思った。  涼子が指差したのはアルファベットのイニシャルのネックレスだった。 「可愛い~。ね、トモ君だったらあのTだよね」 「そうだな。中に入って見てみるか」  店内に入ると涼子は嬉しそうにネックレスを手にとった。その嬉々とした様子は学生時代とまったく変わらなくて俺は思わず微笑んだ。 「涼子ならRだな。よし、買ってやるよ」 「本当?」  俺の言葉に涼子はぱっと目を輝かせた。 「じゃあ、おそろいにしよ!トモ君のTも」  RとTのネックレスを買って俺たちはアクセサリーショップを出た。 「ほら、Rのネックレス」 「ありがとう」  涼子は嬉しそうに俺の差し出したネックレスを受け取ろうとしたがそこではたと手を止めた。 「ねえ、トモ君。私、Tがいいな」 「は?」  俺は涼子の言う意味が分からず思わず聞き返した。 「私ね、トモ君のTをつけたいの。で、トモ君には私のRをつけて欲しい」 「なんでだよ。涼子がTをつけていたらおかしいだろ?」 「おかしくてもいいの」  そう言うと涼子は少し気恥ずかしそうに微笑んだ。  やっぱりよくわからない。そう思いながら、俺はTのネックレスを涼子に差し出した。 「ほら。こっちがTだ」 「……いいの?」 「それで涼子がいいならいいんじゃないのか」  すると涼子は顔いっぱいに満面の笑顔を浮かべた。 「ありがとう。トモ君!」  涼子のこんな笑顔は久しぶりだ。  俺は心の奥そこから嬉しさがこみ上げてくるのを感じた。  涼子が笑ってくれるのならそれでいい。俺は本気でそう思った。
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