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「ねえ、線路の上を歩いてみたいって思わない?」
プラットホームの端に立ち、どこまでも続く線路の先をまるで魅入られたように眺めていた彼女が唐突に言った。
「何を言っているんだ。電車が来たらどうすんだよ」
俺があきれてそう言うと、彼女は微笑んでこちらを振り向いた。
「そのぐらい危ないことをしてみたいってことよ」
日焼けを知らない白い肌。
木の葉をすべて落とした冬の小枝のように、強い力を加えればあっけなく壊れてしまいそうな、細く華奢な体つき。
一度も染めたことのないという黒髪を鎖骨のあたりで揺らして、彼女はなんともあどけない笑顔を俺に向けている。
一体誰が知っているだろう。
彼女のその綺麗な笑顔が、梅雨空の天気のようにひどく移り気だということを。
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