彼女

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 彼女のことをよく知らない人間は、彼女のことを二重人格なのだと思うことだろう。  そのぐらい、彼女は、中原涼子はその涼やかな外見とは裏腹に気持ちの浮き沈みの激しい人だった。  俺と涼子が初めて出会ったのは大学1年のある講義だった。  華奢で女らしい外見の彼女はクラスで目を引く存在だった。そのころの彼女はおとなしいけれどよく笑う明るい性格で、俺と彼女は出会ってすぐに意気投合し、やがて彼氏彼女として付き合うようになった。  いつだって人に優しく、気立ても良い彼女はまわりの男子生徒からも人気があった。  涼子が彼女だということでまわりからは羨望の目で見られ、俺も正直悪い気はしなかった。  大学4年になり就職活動の時期になった。  当時は不況の真っ只中で求人も多くなかった。それでも内定をもらうため学生は必死になって卒論など後回しにして、毎日毎日就職活動に明け暮れた。  リクルートスーツを着て、就活本に書かれていたお手本のような口上を胸に、いくつもの会社を巡り歩く。  それは俺も涼子も同じだった。  俺は卒業までになんとか1社から内定を得ることができた。  涼子は最後まで内定をもらうことはできなかった 「努力は嘘をつかないもの。だから、大丈夫。きっといつか内定がもらえる。それまで私、頑張るから」  大学の卒業式で彼女はそう言ってまわりに明るく笑った。  その笑顔にもうすでに内定をもらった者も俺も安堵して、一足先に社会人となった気兼ねもなく、一緒になって笑いあっていた。  成績優秀、品行方正な彼女のことだ。  彼女ならきっと大丈夫だと誰もがそう思っていた。  その頃は涼子自身もそう思っていたのかもしれない。
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