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卒業後、俺は一般企業に就職し、涼子は卒業後も就職活動を続けながら家事手伝いやアルバイトをするようになった。
思えばあの時期からだった。涼子の様子がおかしいと感じるようになったのは。
「最近あまり会えないのね」
「仕事、忙しいからな。入社したばっかりだし、休み取れないし」
「そうよね。忙しいのよね」
久しぶりに会って、涼子にいつもの笑顔が少ないと俺はすぐに気がついた。
でもあまり気にしなかった。
入社したばかりで新しい環境に慣れるのに精一杯の俺には涼子のことを考えてやれる余裕なんてなかった。
彼女はアルバイトをしながら、ほぼ毎日、就職活動を続けていた。一社、また一社と面接に通う日々。
卒業したため新卒ではなく、中途採用での募集は今まで以上に狭き門となっていた。
それでも彼女は一度も弱音を吐かず、真面目に就職活動を続けていた。それでも彼女に届くのは不採用の通知ばかり。
努力は嘘をつかない。
そう信じる彼女の前には社会の壁が分厚く立ちふさがっていた。
一度だって涼子は打ち明けなかった。
思い悩み、苦しんでいることを家族にも、彼氏である俺にも伝えずにずっとずっと心の中に押さえ込んでいた。
そしてその押さえ込んだ思いは、やがて歪んだ形となって表に現れた。
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