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「どうしたんだ?涼子」
「なにが?」
「だって、お前、それ……」
手首に無数の赤い傷。最初見たときはただのすり傷かと思っていたが、日を追うごとに増えていく傷に俺は何か引っ掛かりを感じた。
「ああ、これ?」
涼子は特に隠す様子もなくあっけらかんとした調子で話した。
「ちょっとね、かっとなって傷つけちゃった」
悪びれた様子もなく話す涼子に俺は一瞬自分が思ったものとは違うのかと思った。
けれど、すぐにそれは思い違いではないのだと思い知らされた。
俺は彼女の親から彼女の部屋から時折、苛立った様子で部屋の壁を叩く音がするのだと聞かされた。
「それがね、発作のように突然部屋から聞こえるの。どんって凄く大きな音が。びっくりして涼子の部屋に行ったら、壁にぶつかっちゃったって涼子が笑って言うのよ。でもそれが数日のうちに何度もあるから、なんだか心配になって」
涼子の手首の傷。
そして部屋の壁を叩く音。
俺は彼女が心に何か大きなものを抱えていることにそのときになってようやく気がついた。
俺が彼女を支えなければ。
けれど、一度外れてしまった心の枷はそう簡単に元に戻らない。
いつもと変わらず明るく笑う涼子。けれど無数の赤い傷は日に日に増えていく。
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