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涼子が部屋の床に倒れていた。
見慣れたフローリングの床に敷いてある白いカーペット。そこに今まで見たことのない真っ赤な楕円の染みが広がっている。
自分は夢でも見ているのかと思った。涼子が、涼子が赤黒い血を流してうつぶせに倒れている。
「涼子!」
部屋に飛び込み涼子に駆け寄った。涼子はぐったりとして動かない。俺はすぐに気がついた。涼子の手首にぱっくりと傷が口開き真っ赤な血が流れて出ている。
「涼子しっかりしろ」
涼子は青い顔をして動かない。俺は涼子の口元に手をやった。か細いが息はある。
「トモ君。一体どうし――」
俺の声を聞きつけて部屋に入ってきた涼子の母は部屋の有様を見て声を失い固まった。
「おばさん!救急車!」
俺がそう叫ぶと、涼子の母は我に返り、慌てて部屋を飛び出した。
「涼子、しっかりしろ!」
俺はそう呼びかけながら、涼子の部屋の棚を開け手近にあった大きめの薄桃色のハンカチで涼子の手首をきつく縛った。薄桃色のハンカチがみるみるうちに真紅に染めあがる。
「涼子、どうしてこんなことを……」
少しずつ涼子の心は元に戻りつつあると、そう思っていたのに。近づいたと思ったら遠ざかる。まるで振り子のように揺れる涼子の心。俺にはもう涼子が分からなかった。
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