いつか変わってしまうもの

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「啓太!」  白い背中に肩から体当たりする。 「うおっ!」  裏返ったように小さく声を上げて、少年が私の方をふり返った。驚いた顔が、みるみるしかめっ面に変わる。 「お前なあ……毎回毎回あぶねえだろうが」 「これくらい支えられないの? 弱いなあ……」  いたずらっぽく笑うと、啓太は呆れたというふうな目で私を見下ろした。 「耐える耐えないの問題じゃなく、危ないって言ってんだよ。傘が刺さったらどうするつもりだよ」  真面目だなあ。からかい交じりに言うと、ふざけんなと怒られる。 「わかったわかった。次から気を付けるって」  啓太は大きなため息をつくと、足の向きを戻してゆっくりと歩き出した。私もその後ろに続く。 「最近雨多いね」 「もうすぐ大会だってのに、止めてほしいよな」  カサの影から空を見上げる啓太の背中を見つめて、また背が伸びたことに気づいた。  啓太は中学からずっとサッカー部に入っていて、放課後はもちろんのこと、ほぼ毎日のように朝練もしている。  だから、雨の日じゃないと同じ時間に登校できない。  部活命の啓太には申し訳ないけど、私にとっては彼と一緒にいることができる大切な時間だった。  足を動かすたび、水の跳ねる音がついてくる。静かな朝の空気を、雨の音が揺らす。  会話はなかったけれど、このくらいで気まずくなるような付き合いじゃない。  まえを歩く啓太の背中。中学の時にぐんと背の伸びた啓太の身長は、私より頭一つ分以上も高い。肩幅だって胴回りだって全然違う。  いつからこんなに変わってしまったんだろう。小さい頃は、背だって体格だってほとんど一緒だったのに。  啓太と私は、俗にいう幼馴染というやつだ。小学校に入学するのに合わせ啓太がこの町内に引っ越してきてからの付き合いで、他の近くに住んでいる子たちとも一緒に、登下校したり、遊んだりしていた。  それでも最初は、私と啓太の関係は仲が良いと言うわけじゃなかった。たまたま家が近くだったから、一緒に遊んでいたメンバーの一人だった、というだけのことで、二人で話したりすることは全くなかったと思う。  そんな啓太との仲が縮まったのは、彼が引っ越してきてから一年半ほどたった頃だった。
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