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少年時代
『この香水いい匂いだね』
俺は母親の機嫌を損なわない様に、おべんちゃらを言った。
本当は臭くて敵わないんだけどね。
『いつもと一緒の香水よ』
母親は嬉しそうに微笑んだ。
『いいや、今日の匂いは格別だよ』
俺は食卓の椅子に座ると、母親が料理を作り終わるのを待った。早くご飯を食べて、十九時に遅れない様にしたかったんだ。
早くしてなんて言ったら、銭湯代をもらえないからさ。
これは冗談ではなくて本当の話なんだ。
一度だけだけど、母親は機嫌を損ねて銭湯代をくれないことがあったんだ。
その時は大ちゃんに払って貰ったんだけどね。
大ちゃんは本当にいいやつなんだ。
俺の自慢の友達だ。
『出来たわよ』
母親が料理を食卓に置いた。
ハムエッグに焼き魚、まるで、朝食みたいな料理だった。
『頂きます』
時間は十八時四十分だった。
俺はご飯を食べるとリュックサックを背負い、リビングからベランダに出た。
俺の住んでいる所からは、大ちゃんの家も見えて、いつも遊んでいる公園も見える。
大ちゃんの家は電気がついていた。
俺はそろそろ行くかと思ったら、大ちゃんの家の窓があいたのがわかった。
『賢治、そろそろ行こうか』
『うん』
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