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「……来栖」
帰り際に声を掛けられ、来栖と呼ばれた生徒は立ち止まった。
相手は溜息を吐いていた生徒。
教室内では最早誰もカンパの話題を口にしないで、あの凍り付いた雰囲気は欠片も残されておらず、夏休み直後の気だるさだけが漂っている。
弛緩しダラケ切った日常からの脱却は容易ではないのと、久し振りに会う級友達との無駄話を続ける楽しみに教室内には半分近い生徒が残っていた。
「金無いぃー」
「お昼休みのがトドメよねぇ」
無邪気に放たれる言葉に、一瞬、来栖の足はすくみそうになった。
昼休み、教室の空気を凍り付かせた二宮は既に居ない。
カンパを募る一団は、居残る生徒を標的に素早く他の教室を巡り始めた様だ。
「渡辺だっけ、何か用」
素っ気ない台詞をあえて口にする。
「ちょっと着いて来いよ」
人が多いから場所を移動しようと言外に含ませている渡辺を追う。
話したい事はなんだろうと考えつつ。
二宮に付いてか、妊娠した子に付いてか。
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