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「傷」
思ったよりも足早に進む渡辺につられ既に校舎内を抜けていた。何食わぬ顔で人気の少ない校舎裏へと歩くのに着いて行く。
「二宮、中学の時に子供、堕胎したんだよ」
一際低く呟かれた答えに足を止めた。それを僕に言うかと来栖は思う。
「来栖」
渡辺が振り返る。二人以外の声が、校舎裏から聞こえて来たのはその時だった。
「アンタ、何考えているのよ」
「知られない内に堕胎するのが普通でしょ。育てられないんだし、将来が潰れちゃったらどうするのよ」
抑えていても苛立ちを強く感じる声。対する声は感情こそ窺えなくとも正論を述べている。
「親や先生には相談したの。真剣だったのなら、きちんと話し合うべきでしょう」
「出来る訳ないじゃん」
「アンタ、もの考えて喋りなさいよ」
鈍い音。壁に柔らかい物がぶつかる音が続けて響く。
ほとんど反射的に二人は走った。
「おい、お前ら何してんだよ」
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