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最近ふと、力弥君が俺に甘えているように感じることがある。前々から、外で飯を食い終わった後に「ごちそうさまでした」と言いながら愛らしいまなざしを向けてくるが、病み上がりだったころに比べて明るい笑顔を見せるようになったと思っても、それ以上の何かを意識することはなかった。やがて俺に話しかける時、「芳樹さん」と呼びながら俺のひじにそっと手を添えたり、上着の裾をつまんだりするようになった。 これは退行現象、というやつだろうか。人は環境が変わるなどして強いストレスを受けると自己防衛本能が働き、甘えたり駄々をこねたりすることで自分を守ってほしいと遠まわしに訴える。いわゆる「赤ちゃんがえり」だが、幼児だけに起きることではない。 まあ、力弥君の場合は別にわがままにふるまっているわけでもないし、この程度の甘えなんてかわいらしいものだ。むしろ大歓迎だ。 親を失い、最愛の祖母まで亡くした彼が寂しさを抱えたまま誰かにすがろうとしているのなら、俺がとことん甘やかして安心させてやりたい。これから先のことが見えず、うずくまっているのなら、急かしたりせず、ただ抱き留めて見守ろう。今の彼に必要なのはそういう時間と、それが許される環境のはずだから。
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