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十月に入って間もなく、谷井さんに呼ばれた。
そして僕は谷井さんに説得され、気に入っていた狼男の仮装を泣く泣くあきらめた。頂いたお手製のおはぎがとてもおいしくて、突っぱねることができなかったわけじゃない。主役である子供たちが近寄れない、と言われたから、あきらめたんだ。でも、谷井さんはやっぱり優しい。
「こちらのマスクはお借りして、ちゃーんと力弥さんが狼男に変身できるようにしておきますからね。」
「僕、かっこいい狼男になれるでしょうか?」
「もちろんですとも!かっこよくて、怖くない、すてきな狼男にして差し上げますわ!」
谷井さんが力強く頷いたから、僕は安心して任せることにしたんだ。それなのに…。
「さあさあ、こちらに着替えてくださいね。」
ご機嫌の谷井さんに連れられてやってきた社長室。そこで渡されたのは何の変哲もないジーンズと白いTシャツにチェックのシャツ、と思ったら、ジーンズはお尻のところに小さな穴が開いていて、ふさふさした狼のしっぽを差し込んで留めてあった。
「あ!これ、あのマスクと同じ色!」
「はい。こちらのTシャツの首周りにも、同じ色のファーを巻いてみましたの。」
なるほど。胸元から飛び出す狼の胸毛。それにチェックのシャツも裾がびりびりに破れていて、ワイルドに仕上がってる!手袋は先端の長い爪がなくなってしまっていたけど、シャツの袖からはみ出す毛皮がかっこいい。僕はすっかり上機嫌だった。谷井さんがマスクを持ってくるまでは。
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