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「さあ!仕上げはこちらですよ!」
谷井さんが風呂敷からいそいそと取り出したのはあのマスクをベースにした、耳付きのフード…。
「こ、これ…。」
「はい!あの恐ろしい顔を全部切り取って、お帽子に仕立ててみましたの。このベルベットのリボンをあごのところで結べば、脱げませんわ。ささ、被ってみましょうね?」
さっきまでワイルドな感じだった狼男が、この被り物をしただけで、何だか、何だか…。ライオンのたてがみを巻いた猫みたいに見える、気がする。
「かっ、かわっ…いえっ!かっこいいっ!力弥さん、大変、凛々しいお姿ですわ!今、社長をお呼びしますね!!」
谷井さんがぱたぱたと社長室を出て行くとき、僕は見た。谷井さんがこっそりガッツポーズをするのを。
ほどなく、芳樹さんの苦笑いが聞こえてきた。
「あー、焦るな、谷井。力弥は逃げないだろう。」
パタン、とドアが開く。黒いマントをひらりとはためかせた芳樹さん。ワインレッドの裏地がつややかに光る。オールバックにした髪型も、大人の男の色気を漂わせていて…。
「芳樹さん、すてき…。」
思わず、ほぉ、とため息をつくと…。
「りきっ、か、かわっ、超かわっ…あ、いや、かっこいい!うん!かっこいいぞ!」
分かってます。こんなの被ったら、絶対かっこよくはならないって。
写真を撮らせてくれ、と興奮気味に迫る芳樹さん。は、恥ずかしい!芳樹さんに比べたら、僕なんか全然かっこよくない。二人とも、ごまかすみたいに言葉が詰まっていたじゃないですか!
「と、とりあえず、お手伝いに行きましょう!」
僕は逃げるようにお菓子コーナーへと向かった。
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