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私が初めて力弥君を見たのは、彼の祖母の通夜に参列した時だった。息子の治樹は彼の親友の一人で、「あいつ、おばあさんとずっと2人暮らしだったんだ。母親は亡くなってて、父親はどこにいるかよくわかんないらしい」と悲痛な面持ちでつぶやいた。 学友とその親たち、学校関係者でいっぱいになったその部屋の右前方、遺族が座る席に、彼は背筋をすっと伸ばして座っていた。白い肌に、黒目がちな瞳を縁取る長いまつげ。ほんのりと赤みを帯びた唇。漆黒の前髪を指先でそっと横に流す仕草は、紅顔の美少年、という昔風の形容がふさわしい。 「となりに座っているのは、お兄さんではないのか?」 「あぁ、あれ、担任の松尾。いても役に立たないだろうけどな。」 本当に、天涯孤独なのか。それとも明日の本葬には、遠方から親戚でも来てくれるのだろうか。もし、今、私が死んだとして、妻は上海から戻ってくれるのだろうか… (葬式には、来なさそうだな…) まっすぐ前を見据える喪主に息子の姿を重ねながら、私は心の中で嘆息した。
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