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「ヨーコおねえちゃんはなんの種族?」
せっせと髪を整えながら、小紅が聞いてきた。
葉子は気を取り直して、なにも考えずに答えてしまう。
「わたしですか? わたしは人間ですよ」
その瞬間、空気が変わった気がした。
賑やかだった職安内が静まり返り、この場にいる職員と求職者たちが葉子たちに視線を向けている。
「あ、あれ? なんだか皆さんこちらを見ているような……」
嫌な予感がして、じとっとした汗がにじむ。
変なことを口にしたかな、と振り返るも心当たりは浮ばない。
「今、なんていった?」「人間って言わなかったか?」「どうして人間がここに」「ここは化け物専用だぞ」「誰が人間なんかつれてきたんだ」とざわつくフロア内。
不穏な空気が漂い、あたふたしている葉子に小紅はやや怯えた表情でたずねてくる。
「ヨーコおねえちゃん人間、なの? 小紅のこといじめるの?」
今にも消え入りそうな声だった。
少女は震えていた。過去になにかあったのだろうか。葉子は阪口を見やる。彼は神妙な面持ちのまま、葉子が聞きたかったことを教えてくれた。
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