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「わたしは小紅ちゃんのことをいじめたりなんか、しません。絶対に」
今の自分が言えることを。
周囲のざわつきが静まり、再びざわめき出す。調子のいいことを言っている、と思われたってしょうがない。一度できた溝はそうそう埋まることはない。
でも知っていて欲しかった。敵意だけではなく、優しさを向けてくれる人間もいることを。自己満足だっていい。伝えられずにはいられなかった。
「よ、ヨーコお姉ちゃん……」
小紅がなにか言いたそうに口ごもる。それを制したのは阪口だった。
「なにを――」
「ややこしいのは後だ。面倒な求職者が来ちまったからな」
何のことだ、と思ったのも一瞬。
ずしん、ずしんと。どこからか響く足音。阪口が見据える先には、四月だっていうのに真っ黒なコートを羽織った身長二メートルほどの大男がいた。
どこかで見た気がして、あっと思い出す。今朝大学に向かう途中でぶつかった男だ。
黒コートの大男は阪口、葉子、小紅の前までやってくる。
「オノ・ヨーコ。小紅をつれて下がってくれ」
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