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不穏な空気を感じ取ったのか、阪口は一歩前に踏み出し、大男と真正面から対峙する。葉子は言われた通り小紅の手をとってこの場を離れようとする。が、小紅はふるふると震えていた。怖がっている。早く遠くへ連れ出さないと。
「オマエ、ここの職員か?」
「この名札見りゃあ、わかるだろ。あんた求職者か? だったらそこの受付で番号札貰って静かに座って待っ――」
ぶん、と唸りを上げた。目の前にいた阪口が宙に浮び、そのまま吹っ飛んでいく。建物の壁にぶち当たり、そのまま轟音をたてて突き破り外へと消えていく。
「ふーッ、ふーッ! どいつもこいつも――」
大男はコートを脱ぐと、首にかけたペンダントを力任せに引きちぎった。すると身体がむくむくと膨れ上がり、人間の姿から本来の姿へと変貌する。
半人半獣。顔が牛で身体は人間。二メートルはあるその生き物は荒々しく鼻息を繰り返している。
その手に握り締めている書類はくしゃくしゃに潰されている。
「ふーッ、ふーッ! このオレに糞みてぇな求人を紹介しやがって!」
牛人――伝説上の怪物――ミノタウロスは声を荒げ、乱暴に書類を床に叩き付けた。
まるでこれが数秒後のお前の姿だ、と言わんばかりの迫力で。
「お、おおお、おち、落ち着いてくだひゃい」
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