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「こ、小紅ちゃん……」
「ふーッ。うるせぇガキだ。大人のことに口出してンじゃねぇ!」
ミノタウロスは拳を振り上げた。
危ない、と言おうとしたが言葉が出ない。
助けなきゃ。
でもどうやって。
ミノタウロスを止められるほど、自分に力はない。
少女は勇気を出して守ろうとしてくれた。
うじうじ考えても答えは出ない。
なら!
「ッ!」
葉子は無我夢中で小紅を抱きかかえて丸くなる。これなら殴られても大半のダメージは葉子自身が受けることになる。これくらいしかできないが、ないよりはマシだ。
振り上げた拳が、振り下ろされる。
たとえ死んでも、この少女だけは守らないときっと後悔する。
強く、強く抱きしめる。
痛みは一瞬だ。その一瞬を過ぎればもう痛みすらなく意識を失うだろう。
ぎゅっと目を閉じる。
たった一発のパンチから、少女を守りきるんだ。
「――――ッ」
痛みはなかった。
というより拳が二人に届くことはなかった。
「よく小紅を守ったな、オノ・ヨーコ」
優しい声がした。
恐る恐る目を開けると、そこには血まみれで、身体のあちこちを傷だらけにしながらもミノタウロスの拳を片腕で受け止めている阪口の姿があった。
「言い忘れたがこうやって暴れる求職者の対応も職員の仕事だ」
「それを今この状況で言いますか」
呆れてしまうが、助かったことへの安堵でいっぱいだ。
「て、テメェ! さっきぶっ飛ばしたはずだぞ!」
突然の乱入に、ミノタウロスはうろたえていた。
「ああ。なかなかいいパンチだったが、まだまだ脇の甘いパンチだ」
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