第一話 ハロー、ハローワーク

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 冷静に分析し、阪口はミノタウロスの腕を徐々に捻り上げていく。 「いいかミノタウロス。こんなことで一々キレてたらどこの会社に行っても働けんぞ。人間社会は耐えて耐えて耐える。どんな理不尽な暴力にも、どんな支離滅裂な暴言にも。我慢することを憶えなきゃ、おまえは立派な社蓄になんてなれっこないぜ」  いいシーンなのに。それなのに台詞がひどい。まるで真っ黒企業の上司が言いそうな台詞だ。職安の職員が言っていい台詞ではないのは確かだ。 「もし不満があるなら、おれに言え。言っても我慢ならん場合はおれに殴りかかってこい。ただほかの職員や求職者に迷惑をかけることは許さん」  阪口は空いているもう一方の腕をぐるぐると回し、拳を握り締めた。 「いつだって相手になるぜ。なんたっておれは――」  腕をひねられ、もはや戦意喪失しているミノタウロスの顔面に。渾身の右ストレートをぶち込む阪口。  体重移動。腰のひねり。力のこもったいいパンチだった。ガードすらとれなかったミノタウロスは吹っ飛んだ。壁にぶち当たるも勢いそのままに外へと放り出される。 「――この職安の雑用係兼所長だからな」  阪口庵吾。化け物専用職業安定所の雑用係にして所長。  改めてとんでもないところに来てしまった、と後悔する葉子。
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