第二話 化け物たちが夢の跡

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 ここは埼玉県春浦市。  約二三万人の人間と、たくさんの化け物が入り混じって暮らす町。 「お、おはようございます」  春浦市の職業安定所。いわゆる職安。一見するとどこにでもある施設なのだが、実際はこの世界で暮らす化け物専用の職業安定所だったりする。  小さな声で挨拶し、顔を覗かせる女の名は緒乃葉子。いろいろなことがあったがここ、化け物専用職安でアルバイトすることとなった人間である。  彼女が来ると賑やかだったフロアが静かになり、視線が集まる。多少の居心地の悪さを感じつつ、化け物は人間によい感情を抱いていないから仕方ないと割り切るしかない。  しかし、どうも様子がおかしかった。 「葉子ちゃんが来たぞー!」「人間社会について聞きたいことが」「遊んでー」「この前の会社説明会でわからないことがー」「悩みがー」「相談がー」と押し寄せる化け物の波。 「ひぇ」  突然のラッシュに怯んでしまう。  昨日今日で人間に対する感情が変わるわけがないし、認識が改まるわけでもない。でも明らかに友好的に押し寄せてくるのは紛れもなく化け物で、プチパニックに陥る葉子。  すると目の前に影が。 「おいこら、所内では静かにしろ」
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