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「ああ、ミノタウロスならね――」
その時、部屋のドアノブががちゃりと下がった。
誰が来たのかと振り返る。
ドアをくぐるように入ってきたのは身長二メートルを越える大男。むしろ頭が牛で、首から下が人間の半人半獣。ちょうどうわさをしていた例の化け物が現れた。
「あれからうちで働くことになったんだよ」
「なぜ!?」
ミノタウロスは葉子と水飴の目の前までやってくる。見下ろされると思い出す先日の恐怖。あわあわと思考がパニックになる彼女に、ミノタウロスは頭を下げた。
「ちっす葉子先輩! この間はほんとうに申し訳ありませんしたっ!」
「……あれ?」
腰はぴったり九〇度。後輩が先輩に行なうような体育会系の挨拶をしてくるこの牛人は紛れもなくミノタウロスなのだが、中身が別人のようになっていた。
「あ、あの。失礼ですがどこかでお会いしましたでしょうか?」
「憶えていないっすか? あの日あの時あの場所でオレと先輩は出会いましたよね!」
そんなラブ・ストーリーは突然にの歌詞みたいなことを言われても。
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