第三話 迷子鼠と雨のビート

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 よく晴れた日のこと。  春浦市の職業安定所。いわゆる職安。一見するとどこにでもある施設なのだが、実際はこの世界で暮らす化け物専用の職業安定所だったりする。  葉子は施設前の掃き掃除をしていた。その近くには花壇に水やりをしている水飴がいる。 「今日も暑いねー」  いつもの彼女とは違う。まずきちんと首からペンダントをしている。そのため見た目が人間だ。人間体の彼女はとてもスポーティー。今日もたくさんの汗を流している。 「これからもっと暑くなると思うと気が滅入りますね」 「あたし暑いの苦手だから溶けちゃうかも」  春の陽気で溶けているのだからその心配はない。夏になったら跡形もなく溶けきってしまうのでは、という疑問が浮ぶもあまり深くは考えないことにした。  すると職安前にふたつの人影が現れる。 「こんにちは、お嬢さん方」 「こんにちはー!」 「え、あ、はい。こんにちは」  スーツを着た男性だった。
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