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「ですからね-------」
候補者の『むらさきけんぎょう』という人は、ここいちばん、といったタイミングを見計らったように自分の頬の横に人差し指をピンと伸ばしてみせた。
高架駅前で弁舌を振るう男前の中年男性。
この人。変わった名前だが本名だそうで漢字だと『紫賢行』と書く。
誰にでも覚えてもらい易いよう、姓名をひらくのは選挙戦のスタンダードだが、いざ、当選となったあと、少しばかり幼いイメージがついて威厳に欠けるのが弱点か。
しかし相応の働きを見せれば、存外、若い世代や穏健な壮年層に支持を得られるという。
ルックスだけを言えば、このムラサキ氏。
かなりの男前で人好きのする容姿だ。
「我々ヴァンパイア人類が政治と市民の生活の間に存在し続ける肩書の壁を取り払ってですね、大袈裟かもしれませんけれども、人類平和への貢献を立派に果たせる存在になっていきたいと思うのです!」
賑やかに拍手の音。応援の声が飛ぶ。なかなかの人気と見て良いだろう。
-------これは票が伸びそうだナ。むらさき候補。
週刊電子マンデーの記者、矢代モト子は頷きながらタブレットに並んだ候補者一覧に目を落として『むらさきけんぎょう』の名に赤い線で『〇』を付けた。
今回のちょっと変わった選挙。
それは既に『吸血鬼選挙』と呼ばれていた。
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