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 私立翠凛館(すいりんかん)高等学校の三階、角部屋(かどべや)である視聴覚室の窓からは、正門から玄関までの様子がよく見渡せる。  五月の上旬。  眩しいくらいの陽光と新緑の中、深い緑色の制服を身につけた男子生徒たちと、同色のブレザーに鮮やかなオレンジ色のリボンをつけた女子生徒たちが、軽やかに歩を進めていた。  (かばん)を肩に担いで気だるそうにしていたり、ふざけ合ったり、会話で盛り上がったり。そんな砕けた感じで歩いているのは、二年生か三年生だ。  新一年生の仕草は、まだ固い。  入学してちょうどひと月。  精神的にも疲れがたまっている頃合いだろう。  しかも、ゴールデンウィーク明け。今年は連休に土日が重なり、大型連休となった。  休み前と後では、精神状態が逆転する。憂鬱(ゆううつ)な気分で登校してくる生徒も多いはず。  つい先ほど行われた職員会議では、特に新入生の様子に気を配るよう教師たちに伝えたが、余計なお節介だったかもしれない。  子供たちは、環境に対する適応能力が高い。  あっという間にこの学校の校風にも馴染(なじ)んで、いつの間にかぐんと成長し、立派に卒業していく。     
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