優しい嘘

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『そっちは大丈夫?』 妻からメッセージが届いた。 10分前、大きな地震による津波が起きた。俺はどうにか流されていた家の屋根によじ登ったけど、どんどんと沖に流されている。 俺は屋根にしがみ付きながら返信を打った。 『僕は大丈夫だよ。君もすぐに高台に避難して』 『分かった、また後でね』 俺は妻の無事を願った。俺はきっとこのまま沖に流されて助からないだろう。スマホもすぐに圏外になってしまうに違いない。最後に妻と会話できて本当に良かった。 男は静かに目を閉じた。 「『僕は大丈夫だよ』か…嘘ばっかり。あの人、嘘つく時だけ俺じゃなくて僕って言うんだから。」 彼女はスマホの画面を眺め続けた。おそらくこれが夫からのメッセージを見る最後になるだろう。 「ごめんね、最後に嘘ついて…」 呟く彼女の体は瓦礫の下に挟まれている。それに足元がなんだかすごく熱くなってきた。 彼女は静かに目を閉じた。
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