0人が本棚に入れています
本棚に追加
『そっちは大丈夫?』
妻からメッセージが届いた。
10分前、大きな地震による津波が起きた。俺はどうにか流されていた家の屋根によじ登ったけど、どんどんと沖に流されている。
俺は屋根にしがみ付きながら返信を打った。
『僕は大丈夫だよ。君もすぐに高台に避難して』
『分かった、また後でね』
俺は妻の無事を願った。俺はきっとこのまま沖に流されて助からないだろう。スマホもすぐに圏外になってしまうに違いない。最後に妻と会話できて本当に良かった。
男は静かに目を閉じた。
「『僕は大丈夫だよ』か…嘘ばっかり。あの人、嘘つく時だけ俺じゃなくて僕って言うんだから。」
彼女はスマホの画面を眺め続けた。おそらくこれが夫からのメッセージを見る最後になるだろう。
「ごめんね、最後に嘘ついて…」
呟く彼女の体は瓦礫の下に挟まれている。それに足元がなんだかすごく熱くなってきた。
彼女は静かに目を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!