嘆願

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嘆願

お願いします、神様。 「いらっしゃるのであれば…わたしのねがいをききいれてください。」 岩場に膝を付け、震える腕を組んで祈る少女が居た。みすぼらしい格好だが、元々見目麗しい彼女の姿はより一層際立つのであった。 どれほどの時をそこで過ごしているのかは分からない。彼女の岩場に晒した膝は鬱血により、青黒く変色している。本来ならば違和感を覚えるはずなのに、彼女は気にせずひたすら願い続けていた。 「おねがいします…おねがいします…」 歳は四つだろうか。 自我が芽生え始めたばかりの幼子が、冬の寒さも気にせずにひたすら神に縋っている。 親らしき人はみえず、大人の姿もない。 雪が降り始めた境内は、神と幼子だけの世界となっていた。 「とうさまと…かあさまが……なかよくなりますように…」 小さな声だがはっきりとした口調だ。 …果たして、神はこの子供を助けるのだろうか? 世の時は1755年(宝暦5年)、世は徳川家重が治めていた。 増加する一揆、宝暦治水事件、宝暦事件…様々な負の連鎖が起こり、社会不安は解消されないままであった。 この少女は果たして、どんな生涯を送るのだろうか…。
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