第二章 侵入者

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「いないっすよ、この事務所にいる女子事務員は私だけっすよ」 「えっ、田町だけなの?」 「そっすよ」 (それでは、昨日の作業記録は誰が書いてくれたのだろう?)  神崎は首を捻って自分のデスクに座ると、本日の業務スケジュールを確認した。 「今日はA社のウエハ構造解析、C社のチップ熱応力評価、H社のポリシリコン接合評価、それからP社と新和開発社のサンプル返却予定日……あっ、忘れてた、例の評価サンプルの返却日だったな。他社の評価を早く片付けて返却しないと――」  神崎が椅子から立ち上がって居室のドアを開ける。  評価室に向かう途中、隣の技術営業課の前を通り過ぎると、今日も窓越しに中川の姿が見えた。 (昨日の女子事務員はいないのかな?)  神崎が部屋の奥側を覗いて、昨日、廊下で擦れ違った女子事務員の姿を探す。  技術営業課の部屋の奥側は、FAXやコピー機がずらりと並んでいる場所で、各課の共用スペースだ。各課にあるPCの出力は一括処理されて、この場所で印刷されるシステムになっている。 (彼女はいないな……)  神崎は腕時計で時間を確認して評価室に向かった。  ――本日の評価業務が終了したのは午後九時頃だった。     
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