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営業部門の担当者は顧客の受注を取る為の手段として、この手をよく使う。『評価サービス無料』を売り文句にして、評価設備の販売実績を上げるわけだ。会社としてはトータルで利益を上げていれば良いので、無償サービスもOKと言う事だが、結局そのツケはいつも解析技術課に回ってくる。お陰様で解析技術者と評価設備は年中フル稼働だ。
神崎が第一技術会議室のドアを軽くノックして開くと、ドア越しに紺色のスーツを着た男の姿が見えた。
その男は会議デスクの上で神崎の評価レポートを開いて中村課長と商談をしている。
「神崎です。遅くなりました」
神崎が紺色のスーツの男に会釈をして中村課長に視線を合わせると、中村課長は右手を顧客の方に差し出した。
「神崎君、こちらはフェニックス社の猟田様だ」
「フェニックスの猟田です。よろしくお願い致します」
猟田が椅子から立ち上がって神崎に名刺を渡す。
名刺には《フェニックス社 営業部 部長 猟田博久》と書いてある。猟田の肩書きは営業部長の様だ。
「解析技術課の神崎です。よろしくお願い致します」
神崎も手帳から名刺を取り出して猟田に渡した。
「先日、御社に依頼致しましたサンプル評価の件ですが、依頼元の新和開発社様の方で評価レポートが大好評でして、是非、御社の評価装置を購入したいと言われております」
「えっ、あの評価レポートがですか?」
神崎が猟田の言葉に戸惑う。
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