第三章 ハッカー

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「狙いは、ブラックウエハの解析評価データーだと思います。技術サーバーから、データーが復元出来ない様に完全に消されていますので、まず間違いありません。それと、変なんですよ。商社のフェニックス社はブラックウエハの評価委託注文を出していません。おまけに、うちの会社に来た猟田と名乗る男は、フェニックス社の社員ではありませんでした。念の為に、委託元の新和開発社に連絡を取ったのですが、やはり評価委託注文は出されていませんでした」  神崎はデスクの上に肘をついて富田部長に答えた。 「何だって、じゃあ、三千万円の受注契約はどうなったんだ?」  中村課長が椅子から身を乗り出して神崎に尋ねる。 「契約は嘘です。我々は嘘の契約を受けてブラックウエハを技術評価し、その技術評価データーをまんまと盗まれた事になります。ただし、実質的な損害は何もありません。損害があったとすれば、技術評価に使った私の作業工数と技術サーバーの修復時間位でしょう」  神崎は中村課長の質問に答えると、肩を竦めて胸の前で両手を広げた。  ――その日の夕方、人事部から『情報セキュリティの強化について』という、社内通達が発行された。
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