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第四章 ハンカチの持主
――夕方。
神崎は定時で仕事を終えると、デスクの上を整理して帰り支度を始めた。
「あれっ、神崎さん、もう帰るんっすか、珍しく早いっすね」
「ああ、今日は疲れたから、ちょっと気晴らしに連れと飲みに行ってくるよ」
「連れって、例の筋肉男っすか?」
「そうそう、例の筋肉男っすよ、俺の親友でね」
神崎が田町の言葉を真似て答える。
「私も行って、いいっすか」
「えっ、何で? 本当に行くの?」
「うん、行く行く、ちょっと待ってね」
田町は右手を上げて神崎を待たせると、PCの電源を切ってデスクの上を片付け始めた。
――終業後、神崎と田町は駅前で待ち合わせた。
「神崎さんが定時で帰るなんて、久し振りっすね」
「そうだな、こんなに早く帰るのは半年振りかな、貧乏暇なしだからね」
二人が駅前の居酒屋に向かって歩き始めると、道すがら田町は楽しそうに鼻歌交じりの流行歌を口ずさんだ。
「今日は散々な日だったのに、田町は何だか楽しそうだな」
「楽しいっすよ、今日は神崎さんと二人でデートっすからね」
「違うって、俺の連れと三人で飲むんだろうが」
「いいの、いいの、気にしない、気にしない」
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