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その評価レポートは少々手抜きした評価レポートだった。無料の評価サービスの場合、あまり細かい評価までしないのが常だ。しかも、商品として完成していない実験装置を使用した評価だったので、データーの信頼性は保障出来なかった。
「――と、言う事なんだ。神崎君の評価レポートのお蔭で新商品の初契約が取れたんだよ。しかも、一気に三台の契約だ。よくやってくれたね」
「はぁ……」
「何だね、神崎君、もっと喜びたまえ。たった一ヶ月で三千万円の売り上げだからな、今年の君の人事評価はAAAだぞ」
(俺がAAAなら、課長の評価はスペシャルAAAで、今年は部長昇格でしょう)
中村課長が顔に満面の笑みを浮かべて神崎に話し掛けると、神崎は心の中で愚痴をこぼした。
「ところで、神崎様、評価レポートのデーターについてなんですが、検出された金属の詳細データーは、ありますでしょうか?」
「ええ、あります」
「新和開発社様の方から、詳細データーの提出を要望されているものですから」
フェニックス社は中間業者で、顧客と設備メーカーの間に入って商談をまとめる商社だ。俺達が徹夜で評価したデーターも、商社はそれを右から左に渡すだけで利益が上がる。
(俺も商社に転職しようかな……)
神崎が心の中でぼやく。
「えーと、検出された金属は、カッパー、アルミ、タンタル、ニッケル、チタン、コバルト、タングステンですね」
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