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神崎は金属の詳細データーを予め手元に持っていて、解析資料をデスクの上で広げて猟田に見せた。
「あっ、それと、イリジュウムが入っていますね」
猟田は一瞬目を細めて表情を変えたが、神崎は資料の説明に夢中で彼の表情の変化に気付かなかった。
猟田に金属の詳細データーを手渡すと、彼は直ぐに帰り支度を始めた。
「猟田様、もうお帰りですか? もしよろしければ食事でも如何でしょうか?」
「いえ結構です。本日はありがとう御座いました。本契約の際はよろしくお願い致します」
「こちらこそ、よろしくお願い致します!」
中村課長が猟田を接待に誘うと、彼は接待の誘いを断ってさっさと帰った。
打ち合わせの後、通路を歩いて技術営業課の前を通り過ぎると、部屋の窓から中川の姿が見えた。
(中川も運のいい奴だな、本来なら無断の評価依頼と言う事で、お叱りを喰らうところだ。しかし、三千万円の設備売買契約成立ともなれば逆に評価されるだろう)
神崎が部屋の窓越しに中川の顔を覗き込むと、中川は顧客に電話をしている様で、固定電話の受話器を持ってしきりに頭を下げていた。
「さて、残りの仕事を早く片付けてしまうとするか」
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