第一章 シークレットナイトライド

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 評価室はクリーンルームの中にあり、ダウンフロー式クリーンルームの設計環境は清浄度クラス一〇だ。室内は半導体ウエハの製造が出来るレベルに保たれている。照明は全てイエローランプで、一旦、クリーンルームに入室すると、現在が昼なのか夜なのかさっぱり分からなくなって、時間の感覚が狂う。  ※クラス一〇はクリーンルームの清浄度を表す。アメリカの軍事規格で〇・五ミクロンメートルの塵が一立方フィートの空間に十個未満しか無い超清浄な環境である事を示す。 「さて、P社の評価を手っ取り早く片付けるとするか、今日はエックス線分析で完了のはずだったな」  神崎はP社の評価サンプルをステンレス製の保管庫から取り出した。  保管庫の中には顧客から預かった半導体の評価サンプルが、ぎっしりとつまっていて、例のウエハ評価サンプルもそこに入っている。  神崎が保管庫の扉を閉めようとした時、背後から声が聞こえた。 「神崎さん、ちょっといいですか?」  振り向くと、生産技術課の吉田が立っていた。  吉田は新規設備の組立調整担当だ。 「ああ、いいよ、何だい」 「試作中のウエハ評価装置なんですが、ちょっと不具合がありまして、実は先日、神崎さんが評価で使用された時、電子走査線のピントが少しズレていたんです。なので、ウエハ評価サンプルの計測ポイントもズレた可能性があります」 「えっ、そうなの?」 「ええ、そうなんです。申し訳ありませんでした」  吉田が神崎に頭を下げて丁重に謝る。     
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